東京地方裁判所 昭和58年(ワ)405号 判決 1984年7月20日
原告 東光総合リース株式会社(旧商号 株式会社大富士総合リース)
右代表者代表取締役 鈴木進
右訴訟代理人弁護士 大林清春
同 池田達郎
同 白河浩
被告 株式会社石渡製作所
右代表者代表取締役 石渡愼一
右訴訟代理人弁護士 国分昭治
主文
被告は、原告に対し、金二二五九万五〇一八円および内金二一〇九万八〇〇〇円に対する昭和五七年一二月三〇日から完済に至るまで日歩四銭の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は仮に執行することができる。ただし、被告が金一〇〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
主文同旨
二、被告
1. 原告の請求を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求の原因
1. 原告は、小澤自転車工業株式会社(以下「小澤自転車」という。)に対し、昭和五四年八月一日、原告か末広商事株式会社から同日買い受けた株式会社宮野鉄工所製B六―二〇型自動盤一台ほか付属品一式(以下「本件リース物件」という。)を、左記約定でリース(賃貸)した(以下「本件リース契約」という。)。
記
(1) リース期間 八四か月
(2) リース料は月額金四六万三〇〇〇円とし、各月先払いとする。
(3) 借主がリース料の支払を一回でも怠ったときは、リース料金額の残額を直ちに支払う。
(4) 遅延損害金の利率は日歩四銭とする。
2. 被告は、原告に対し、昭和五四年八月一日、小澤自転車の右債務につき、連帯保証した。
3. しかるに、小澤自転車は昭和五七年七月五日支払分のリース料を支払わなかったので、原告は被告に対し、リース料残額金二一〇九万八〇〇〇円、リース料残額金二一二九万八〇〇〇円に対する昭和五七年七月六日から同年一二月七日まで日歩四銭の割合による遅延損害金合計金一三二万〇四七六円、リース料残額金二一一九万八〇〇〇円に対する昭和五七年一二月八日から同月二九日まで日歩四銭の割合による遅延損害金合計金一七万六五四二円(以上総合計金二二五九万五〇一八円)、および右残額金二一〇九万八〇〇〇円に対する昭和五七年一二月三〇日から支払ずみまで約定利率日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、請求原因に対する認否
1. 請求原因1の事実は否認する。原告と小澤自転車との間の契約は、リース契約に仮装した金銭消費貸借契約にすぎない。
2. 同2の事実は否認する。
三、抗弁
1. (通謀虚偽表示―請求原因1に対し)
仮に原告と小澤自転車との間で右リース契約が締結されたとしても、それは原告と小澤自転車が通謀の上、双方ともその意思がないのにこれを仮装した虚偽の意思表示である。
2. (錯誤―請求原因2に対し)
原告と小澤自転車との間の右リース契約はリース物件の引渡を前提としないものであったが、被告は、原告との間で右連帯保証契約を締結する際、右リース契約は右引渡を前提とするものであると誤信してこれをなしたものである。
四、抗弁に対する認否
いずれも否認する。
第三、証拠<省略>
理由
一、本件リース契約とその効力
1. 本件リース契約の成立
<証拠>を総合すれば、原告と小澤自転車は外形的にみて請求原因1記載の合意をしたことが認められ、右認定に反する被告代表者尋問の結果はにわかに措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2. 虚偽表示性の有無
抗弁1の事実(虚偽表示)のうち、原告が小澤自転車と通謀の上、真実その意思がないのに虚偽の本件リース契約をしたとの部分については、一部これに沿う証拠として被告代表者尋問の結果があるが、同結果はこれを否定する証人石渡二郎(当時の原告会社担当者)の証言等に照らし、未だこれを認めるに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
二、本件連帯保証契約とその効力
1. 本件連帯保証契約の成立
<証拠>によれば、請求原因2の事実(連帯保証)を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
2. 錯誤による無効の有無
<証拠>によれば、被告が主張するとおり、本件リース契約においては、借主たる小澤自転車は本件リース物件を結局は受領しなかった(すなわちいわゆる空リースであった)ことが推認される。
一方、<証拠>を総合すれば、(一)本件リース契約は、外形的にみると、ユーザーたる小澤自転車が本件リース物件を直接にその購入先たる末広商事株式会社から購入する資金を十分に有していなかったため、物件の引渡等は購入先たる末広商事株式会社からユーザーたる小澤自転車に対し直接になされるものの、金融機関の系列会社たる原告が小澤自転車に金融上の便宜を与える目的で、原告が末広商事株式会社から右物件を買い受けた形にしてその代金を同商事に支払うとともに、原告がユーザーたる小澤自転車に右物件を賃貸して、リース料(賃料)の形で右支払代金の分割回収の形をとることとした、いわゆるファイナンス・リース契約であり、原告は、末広商事株式会社に対し、昭和五四年八月一日に、本件リース物件の売買代金二五五〇万円を現実に支払っていること、(二)本件リース契約の連帯保証人たる被告と主債務者たる小澤自転車とは、自転車部品等の製造に関し元請・下請の関係にあり、被告が右連帯保証をすることとなったのは、小澤自転車から本件リース契約が業績向上に結びつくので協力してほしいと要請されたことによるものであること、(三)被告は、その後半年位経過した昭和五五年になって、小澤自転車の代表者小澤祐英の示唆により、自らの手形決済資金捻出のため、リース物件の引渡を前提としないいわゆる空リース契約を締結することとなり、購入先たる末広商事株式会社を通して、原告が訴外ゼネラルトレードにリースするとともに被告が石渡愼一の個人保証のもとに右ゼネラルトレードから転リースを受け、結局、原告が末広商事株式会社に支払った右物件の売買代金の相当部分を受領して金融の便を受け、その代わり、リース料として原告に対しその分割支払をすることとなっていること、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
右認定事実を総合すれば、仮に被告において、昭和五四年八月一日に小澤自転車のリース料債務を原告に対して連帯保証するに際し、原告から小澤自転車に対する本件リース物件の引渡が現実にあるものと誤信していたとしても、その錯誤は、右に述べた本件リース契約の性格、被告が小澤自転車のため連帯保証するに至った経緯、被告も自らの金融の便を得るため小澤自転車と同じく前記空リース契約を利用したこと等に徴すれば、民法九五条にいう「法律行為ノ要素」に錯誤があったものとは到底いえないと認めるのが相当であり、結局、民法九五条により連帯保証契約は無効であるとする被告の主張は理由がないというべきである。
三、以上によれば、原告の本訴請求は理由があることに帰するからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行宣言とその免脱宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中野哲弘)